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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)218号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求の趣旨

一  原告の平成五年一一月二二日付け異議申立てにつき、被告が平成九年六月五日付けでなした決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  本件事案の概要

本件は、原告が有線テレビジョン放送法三条二項に基づき被告に対してしていた有線テレビジョン放送施設設置の許可申請について不許可処分を受けたため、これに対して異議申立てをしたが、被告がこれを棄却する決定をしたので、右決定の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1 原告は、昭和六一年八月二五日被告に対して岡山県和気郡日生町(以下「町」という。)における有線テレビジョン放送施設を設置することについての許可申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、被告は、平成五年九月二二日本件申請について不許可処分(以下「本件処分」という。)をしたので、原告は、同年一一月二二日被告に対して異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。

2 そこで、被告は、有線テレビジョン放送法二八条、電波法第七章の規定に従い電波監理審議会の議に付した上、同審議会で「本件異議申立ては、棄却する。」との決定案が議決(以下「本件議決」という。)されたとして、平成九年六月五日右議決により本件異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をし、右決定書謄本は、同月六日原告に送達された。

二  争点

(手続上の争点)

1 被告に不作為の違法があったか否か

(一) 原告の主張

(1) 被告は本件申請について、昭和六二年三月二五日岡山県知事に意見照会をした(有線テレビジョン放送法四条二項)ところ、同知事は昭和六三年三月一五日に至ってようやく被告に回答をし(以上当事者間に争いがない。)、更に、本件処分がなされたのは、平成五年九月二二日であって、本件申請後約七年が経過している。他社の申請については申請から知事回答までが一か月間であることと比しても、本件申請に対する処分は、異常に長期間留保された。

(2) しかも右遅滞には次のとおりやむを得ない特段の事由はない。

<1>岡山県知事の意見は、本件申請に対し、十分な地元調整を求めるものである(当事者間に争いがない。)が、その内容が日生地区において有線テレビジョン放送施設を設置している五業者の一本化の調整をするというのであれば、一本化はむしろ競争原理を排除するものであって地元住民に不利益となり、かつ、原告以外の者が行う一本化調整を見守るしかない原告にとっては本件申請に対する処分を不当に遅らせる結果になるから、処分を留保するについての合理性はないし、<2>そもそも郵政大臣は県知事の意見に拘束されないのであるから、岡山県知事の意見の合理性の判断にあたっては原告の早期に処分を受ける利益を考慮し、早期処分による悪影響の有無を検討すべきであるのに、電波監理審議会ないし被告は右地元調整の必要性のみに着目して右意見に特段不合理はないとして知事の意見を尊重し、原告の右利益を無視した点で違法である。また、<3>原告は、後記のとおり適法な業者であるのに、日生地区の他の違法業者の既存施設の正常化を理由として本件処分を留保することは許されない。更に、<4>昭和六〇年七月一六日の最高裁第三小法廷判決は処分の留保が法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められ、かつ、申請者が行政指導に任意に応じている場合で、社会通念上合理的と認められる期間であれば、直ちに違法といえないと判示したが、右判旨からして、本件の約七年間の処分留保はそれ自体違法であるし、本件処分の留保が社会通念上合理性がないことは右のとおりである。殊に、<5>原告は、平成三年八月一日被告に対し、不作為についての異議申立書を提出して、地元調整には応じない旨の真摯かつ明確な意思表明をし、平成四年六月六日再度異議申立てをし、更に同年末には不作為違法確認の訴えを提起しているのであるから、右判例の趣旨からも原告の右意思が明らかになったときは遅滞なく処分すべきであり、行政指導を留保の理由にすることは許されないし、処分に当たっては右時点後の経緯を考慮すべきではない。<6>原告は適法業者であるから、一本化調整の協議の中で自己の営業権を主張し、仮に一本化されるのであればそれによる施設等の補償を求めたのは当然の権利行使であって、これを信義則違反と評価されるいわれはなく、この点で条件の折り合わない行政指導による前記日生地区の施設業者一本化調整を拒んだことをもって処分留保がやむを得なかったことの理由にはできない。

(二) 被告の主張

有線テレビジョン放送施設設置の許可を受けた放送施設所有者は、一般私企業と異なり、事実上自然的地域において独占的特権を有することになるために右許可は、その法的性質として企業特許的性格をも帯有しているといえるものである。したがって、右許可にあたっては、具体的事案に応じ処分を留保する期間も含めて郵政大臣の合理的な裁量が認められると解すべきである。本件において、意見照会をした岡山県知事の回答が原告主張のような内容のものであったので、被告は、有線テレビジョン放送の高い公益性に鑑み右回答を尊重し、原告に参加の機会をも与えた地元調整に必要な助言を行いつつこれを見守ってきたのであり、この措置はいまだ右裁量権の行使として許容される範囲内にとどまっているものというべきである。

2 他事考慮

(一) 原告の主張

中国電気通信監理局職員が<1>平成三年二月一五日原告事務所を訪れた際にした『本件申請とは別な申請が出された場合は別申請を許可することがある』との、<2>平成三年一〇月二三日日生町議会活性化対策調査特別委員会においてした『議会としての結論を早く出してほしい。東備放送組合が共同施設に同意しない場合は、東備の提出している申請書を却下し、町と四業者(原告以外の四業者を意味する。以下「四業者」という。)の出資する会社(後に設立された日生有線テレビ株式会社(以下「日生有線テレビ」という。)を指す。)の申請を受け付け認可する。その結果の期間(「その結論を出すまでの期間」を意味すると思われる。)は六か月以内、具体的には平成四年三月までにする。』との各発言及び日生有線テレビの「有線テレビジョン放送施設設置許可申請書」に再送信同意書が添付されていないにも拘わらず右申請を受理したことからみて、郵政省は四業者の保護を意図し、町との間で本件申請を却下して日生有線テレビの申請を認可することを内容とする合意をし、これを前提に町議会に結論を急ぐよう要求したといえるのであって、このような郵政省側の態度は不適切、不当なものである。

(二) 被告の主張

中国電気通信監理局職員と町との間に原告主張のような約束はない上、本件申請についての処分権者はあくまで郵政大臣であって、右職員には何らの権限もない。また、一般に「有線テレビジョン放送施設設置許可申請書」には再送信同意書を添付するよう指導してはいたが、事情によってこれに替わるものの添付があれば右許可申請書を受理する取扱いであったため、原告が指摘する日生有線テレビの許可申請についても通常の対応をしたにすぎず、右取扱いを根拠に郵政省が不当な意図を有していたとする原告の主張は不当である。

(実体上の争点)

(一) 原告の主張

(1) 有線電気通信設備設置は本来国民の自由に属する事柄ではあるが、公共の福祉のために届出制が採られており(有線電気通信法三条一項)また、有線テレビジョン放送法三条一項は、テレビジョン放送を行うための有線電気通信設備のうち一定以上の規模の施設の場合は許可制としている。ところで、右許可申請があった場合には届出義務が免除されており(有線電気通信法三条四項四号、同法施行規則六条二号の二)、これは右許可申請が有線電気通信設備を設置する自由権を行使することを郵政大臣に通知する意味を当然に含み、それ自体に届出としての効果を包含しているからにほかならないが、このように届出義務が免除されている場合であっても、更に許可の対象とならない小規模の一部施設を許可に先立って設置運営するための届出をすることは可能と解すべきであり、そもそも、届出制には行政庁の裁量判断は入らないのであるから、一見して明らかな形式的不備がある場合以外は届出が収受されることによりその効力が発生したといえるし、届出が『受理』される必要があるとしても、収受された以上受理されたものと解すべきである。

原告は、昭和六二年四月二七日郵政大臣に対して、有線テレビジョン放送設備設置及び業務開始届を提出したから、原告の右設備は適法なものであるにもかかわらず、本件決定ではこれが違法であることを前提とした判断がなされている。

(2) 本件申請は、平成五年九月二二日の本件処分時において有線テレビジョン放送法四条一項一、三、四号に適合しないと判断された。しかしながら、申請の当否判断の基準時は、前述のように異常な留保期間のある(不作為の違法)本件にあっては標準処理期間経過時点とすべきである。とすれば、日生地区において適法な有線テレビジョン放送設備を有する業者は原告のみである以上、原告が他の業者を吸収することを前提として施設計画を立てることには合理性があり、原告の需要予測は必ずしも過大なものとはいえないから、本件申請が前記条項各号に適合しないとした本件決定の判断は誤りである。

(二) 被告の主張

(1) 原告主張の有線テレビジョン放送設備設置及び業務開始届書の提出があったことは認めるが、有線テレビジョン放送法三条二項の許可申請書が提出された有線テレビジョン放送施設については、有線電気通信法三条四項四号及び同法施行規則六条二号の二により同法三条の届出義務の適用を除外しているから右届出は受理できない。このため、被告は右届出書について写しであることの証明(有線テレビジョン放送に関する事務処理手続規程七条)は行わずに右書類を原告に返却した。

(2) 本件処分が本件申請の約七年後になされた事情については手続上の争点の1(二)に主張したとおりであって、右処分時における原告の申請内容は、有線テレビジョン放送法四条一項一、三、四号に適合しないものである。

第三  争点に対する判断

(以下の判示において引用する証拠はすべて電波監理審議会審議において提出されたものである。)

一  手続上の争点について

1 不作為の違法性について

本件処分が本件申請から約七年を経過した後になされたことは当事者間に争いがないところであるが、仮に、右期間が本件と同種の申請に対する処分をするのに通常必要とする期間を超えており、しかも右期間処分を留保していたことを正当とする特段の事情がないとしても、そのことによって原告が被った損害の賠償を求めることはできるとはいえても、右不作為の違法の故をもって本件処分を取り消すことはできないものと解すべきである。なんとなれば、本件処分を取り消しても遅延の違法自体は解消するわけではなく、また、本件処分が取り消された場合、被告は本件申請が取り下げられない限り、再度本件申請について処分をやり直すことになるが、後に二5において判示するとおり、その際に、判断の基準時を申請から相当期間内の時点に遡らせることは、処分の性質上許されないものといわざるを得ないからである。したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

2 他事考慮について

中国電気通信監理局職員が平成三年二月一五日原告事務所を訪れた際、『本件申請とは別な申請が出された場合は別申請を許可することがある』旨発言した事実は本決定においても肯認されているが(本件議決に係る決定案四六頁)、甲資四号証も併せ考えると、右発言は、原告の平成三年二月五日付け問合わせに関して右のようになる可能性があることを述べたにすぎないものと解するのが相当である。

また、原告が主張する平成三年一〇月二三日日生町議会活性化対策調査特別委員会における中国電気通信監理局職員の発言については、甲二号証中の水上英也町議会議員の発言及びその議事録を引用する陳述書に右主張に沿うものがあるが、甲資一六号証に照らし、右町議会議員の発言のみから中国電気通信監理局職員の特別委員会で右内容の発言があったものと認定するにはなお足りないし(この点の事実認定に関する前記決定案の表現(決定案四三ないし四四頁参照)は極めて晦渋であるが、結局右発言があったことを積極的に認めたものとは解されない。)、仮に、右発言があったとしても、これをもって郵政省が町と本件申請を却下することを約したこと、ひいては郵政省が四業者を保護する目的をもって処分を留保していたことまで認めることはできない。日生地区には、原告を含め、法令に基づいた届出又は許可を受けることなく有線テレビ施設を有していた五業者があり、その一本化を図る計画に当初から原告は参加し、これが最終的には日生有線テレビの設立となった経緯は後記のとおりであることに鑑みても、郵政省側に原告主張のような意図があったことを認定することは困難である。

更に、日生有線テレビの申請書に不備があったのにこれを受理したことにも郵政省の四業者を保護する目的が認められるとの原告の主張についてみるに、本件決定(前記決定案四七頁参照)において認定されているとおり再送信同意書の添付は法律上の義務ではない(有線テレビジョン放送法施行規則四条参照)が、有線テレビジョン放送実施の確実性を確保するために郵政省は行政指導として右同意書の添付をさせていた。しかし、これが不可能な場合には再送信同意の取得状況を明らかにする資料を添付すれば足りるとされていたもので、未だ右同意書の添付が慣行化していたとまでいえないことは審理の全趣旨から認めることができる。

以上認定判断したところによれば、結局、原告の被告ないし郵政省が四業者を保護する目的を持って本件処分を不当に留保したあげく、本件申請を棄却したとの主張は理由がないことに帰する。

二  実体上の争点について

《証拠略》によれば、本件決定が前記実体法上の争点に関して認定した事実を認めることができるが、その要点とこれに基づく当裁判所の判断は次のとおりである。

1 昭和六二年三月頃、本件申請につき行われた郵政省担当者と岡山県職員との打合わせの際、原告の申請地区に届出のないあるいは許可を受けていない違法な有線テレビの施設(原告を含め六業者。のち権利放棄により五業者となる。)の存在が判明したので、その実態調査を行った。その結果、同年六月現在で加入者の合計数は一七六〇世帯に達していた(うち原告の加入者は三五世帯)。

なお、原告は、昭和六二年四月二七日郵政大臣に対して、有線テレビジョン放送設備設置及び業務開始届を提出したので、他の四業者とは異なり適法な業者である旨主張するところ、右有線テレビジョン放送設備設置及び業務開始届書の提出があったことは当事者間に争いがないが、有線テレビジョン放送法三条二項の許可申請書が提出され有線テレビジョン放送施設については、有線電気通信法三条四項四号及び同法施行規則六条二号の二により同法三条の届出義務が免除されており、原告の右届出は、本件申請に係る施設と同等程度の有線テレビジョン放送施設により(平成八年三月七日付原告の審理準備書面2(1)、本件申請で予定しているより少数の受信者を対象として業務を実施することを目的とするものであると認められる。ところで、前記各規定は有線電気通信事業に対する規制を効果的に行うため、事業開始以前の施設ないし設備の設置の段階でこれを許可又は届出に係らしめるものであるが、有線テレビジョン放送施設の設置許可申請をした者であっても、右設置許可申請と並行して、同じ施設を届出のみで足りるより少数の受信者を対象とする放送のための設備として先行的に使用することとして届出を行うことを禁ずる理由はない(もともと有線テレビジョン放送設備の設置が届出で足りるか許可を要するかは当該事業が一定数以上の受信者を対象とする規模のものであるか否かによるのであるから、右の点についての監視が適切に行われなければ規制の目的は達せられないのであり、前記のような先行的使用のための届出を許すことが特に規制の実効を殺ぐものであるとはいえないし、本件においてみられるように許可申請に対する応答が遅延するような場合を考えると、右のような届出を許す必要もあるといわなければならない。)。したがって、前記有線テレビジョン放送設備設置及び業務開始届を提出したことにより、原告は右届出の限度で適法に設備を設置使用することのできる地位を取得したものというべきである(被告は、右届出は被告が不適法なものとして受理しなかったことにより届出としての効力を有しない旨主張するが、右届出は、他の要件において欠けるところがない限り、被告に到達したことによってその効力を生ずるものであり、被告においてこれを受理する旨の行為をすることが効力発生の要件となるものではないと解すべきである。後に制定された行政手続法三七条参照。)。

しかし、右のように原告が右届出の限度で適法な有線電気通信事業者としての地位を有し、四業者がこれを有しないことが、直ちに、右届出と内容を異にする本件申請が当然に許可されるべきこと、すなわち、原告以外の者の同様の申請に対して許可を与える余地が乏しく、その結果として原告が日生地区におけるテレビジョン放送事業者として独占的なあるいは少なくとも優越的な地位を取得することができるため、これを前提とする原告の施設計画が合理的であり、その経理的基礎が十分強固であり、かつ、地域の事情に適合することを意味するということはできない。本件申請を許可するかどうかは、右届出があったことよりも、次項において検討するような諸般の事情を勘案して決すべきものであり、この点に関する原告の主張は採用することができない。

2 そこで、関係条文に即して本件申請に付き本件決定の理由とされたような許可要件の欠缺が存するかどうかを検討すると、原告申請に係る施設計画によれば、施設区域内の世帯数は一八八六世帯であり、原告以外の既設の施設加入者は既に合計一五〇二世帯であったところ、原告は右約一八〇〇世帯のうち九〇〇世帯の加入を見込んでいた。ところが、原告の申請に係る提供予定のサービスは同時再送信九チャンネルであったが、他の既設共聴施設においても既に七ないし九チャンネルの同時再送信が行われていた。右のように提供されるサービス内容に格別の差がない場合は利用者が二つ以上の施設に加入する可能性は極めて低いといえる。料金についてみても、他業者の料金は加入料が二万五〇〇〇円から三万五〇〇〇円(原告は三万円)、利用料月額が三〇〇円から五〇〇円(原告は三四〇円)であるが、そのほかに原告はケーブルの引込工事代金として一世帯当たり一万五〇〇〇円を予定しているのであるから、この程度の料金の差が利用者をして原告の事業に新たに加入する決断をさせる要因になるとはいい難い。

3 ところで、郵政省は、日生地区の違法な有線テレビの施設の実態調査の結果及び岡山県知事の意向に基づいて検討した上、有線テレビジョン放送の公共性及び地域社会における情報伝達手段としての重要性に鑑み地元町の行政指導による一本化を見守る方針とした。そこで、昭和六三年一二月頃から町と原告との間で第三セクターによる一本化の協議がなされ、共聴施設の違法状態解消を目的に共聴施設に関する懇談会(原告を含む五業者から構成された。)が平成元年一月から平成二年二月まで八回開催された。右懇談会の最終回において、発足することになった新会社(日生有線テレビ)の設立準備委員会が同じ五業者によって設置された。しかし、右委員会の協議の中で既存施設の評価方法、原告の営業権の評価について意見の一致が見られず、平成三年三月の第九回委員会において新たな懇談会を発足させることとして委員会は解散した。これを受けて、平成三年四月以降CATV懇談会が開催されて新会社設立の準備が進められ、原告に対しても新会社への参加の呼びかけがなされたが原告はこれを拒否した。四業者の参加の下に第三セクターとして平成五年三月五日設立登記がされた日生有線テレビは平成五年四月二〇日有線テレビジョン放送施設設置の許可申請をした(同社の予定している加入契約料は三万五〇〇〇円、利用料月額は一二〇〇円(ただし引込工事料は無料)。テレビジョン放送一四チャンネル、短波放送三チャンネルが予定されている。)。

4 この段階で原告申請に係る九〇〇世帯の加入の見込みを再度検討すると、日生有線テレビの契約料及び利用料と較べ、原告のほうが有利であるからといって、これのみで原告の見込みが達成できるかは甚だ疑問である上、同社が四業者の共聴施設を統合することにより提供を予定するサービスの内容も原告より勝っていることからすると、なお一層原告の見込んでいた九〇〇世帯の加入は困難であるといえる。

5 原告は、申請後七年間も処分を留保した本件にあっては申請から標準処理期間経過した時点を申請当否判断の基準時とすべきであると主張するが、仮に、右時点(これが何時になるのか正確に確定するのは困難であるが)で判断したとしても、前記2記載のとおり原告の申請は有線テレビジョン放送法四条一項各号の要件を満たしていなかったといえる上、仮に本件処分を取り消し、改めて判断することになり、かつ、原告主張の標準処理期間経過時点には右許可要件を満たしているものと仮定した場合、これを許可したならば、その許可時点では前記3記載の現状が存在し、同4記載の認定になる以上、右許可は許可時点で法に適合しないものとなり、その結果行政上の混乱を招来することは見易いところである。このような処分が許されないことは明らかであるから、原告主張は失当というほかない。

そうすると、右のように原告の有線テレビジョン放送事業に対する需要が原告の計画どおりになる可能性は否定せざるをえず、結局、原告の申請内容は有線テレビジョン放送法四条一項一、三、四号に規定する許可基準に適合しているとはいえないことに帰着する。すなわち、原告は本件申請の許可から三年間で九〇〇世帯の新たな加入があることを前提に施設計画を立てているが、右前提の実現が困難である以上、その施設計画をもって合理的であるということは到底できない。また、原告の収支見積も右加入者の増加を見込んでのものであるから、予定する契約料等の確保は困難であって、施設を的確に運用するに足りる経理的基礎があるとも認め難い。更に、前記のとおり原告の事業に対する需要が十分ではないと考えられるから、安定した事業運営を確保できる見込みが乏しく、結果的に住民へのサービスが低下する虞があるから、原告の申請に係る放送施設の設置が地域社会に必要かつ適切なものといえないことも明らかである。したがって、これと同じ結論をもって本件異議申立てを棄却した本件決定は相当である。

第四  結論

以上の次第であって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 大喜多啓光 裁判官 合田かつ子)

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